西洋絵画−ロマン主義

前の様式

舞台

フランス

革命期から王政復古期にかけてのフランス。新古典主義が絵画の主導権を握っていた一方で、その「静的で厳粛な様式」は、人の心を真に動かす力に欠けていました。そんな中、絵画に再び「動き」を取り戻そうという流れが形成されます。

背景

ヨーロッパ各国の独立意識

フランス革命」・「ナポレオンの侵略」という二つの事件をきっかけに、各国は「自我」に目覚めます。

古代ローマという西欧各国における「共通の祖先」から、「自国の歴史」・「風土」へと関心が移ったのです。

プロパガンダとしての絵画

ナポレオンの第一帝政期、ナポレオンは絵画をプロパガンダと考えていたため、壮大さはもちろん、具体的な情報を伝えるための「写実性」や、見るものを鼓舞する「激動感」なども絵画に求められました。

この流れは王政復古期にも引き継がれます。

特徴と画家

つのるブルジョア社会への不満

ナポレオン失脚後の王政復古期のフランスでは、次第に確立され行く「ブルジョワ社会体制」の下、簒奪者ナポレオンの再来を恐れる支配層より成り立っていました。

しかし、この社会での平和はあくまでも「欺瞞的」で、そのことに対する反感も日に日に大きくなって行きます。

主観的な芸術表現

そしてその反感を糧にするかのように、「主観的」で「激情」に満ちた作品が現れ始めました。

芸術による社会批判

また、「社会的矛盾」を糾弾するかのような内容を持つ作品も、この時期から主要となって行きます。

理想化からの脱却

この新しい流れを先導する役割を担ったのは、ジュリコーです。彼は新古典主義の作品にしばしば見られる「理想化された歴史表現」とは異なり、「時事的なテーマ」や「狂人」・「人体の断片」など、「非古典主義的なテーマ」を開拓して行きました。

テオドール・ジュリコー|1791−1824|フランス

メデューズ号の筏・模写

ジュリコーは主にルーベンスに傾倒する一方、ミケランジェロカラヴァッジョにも大きな感銘を受けます。そして彼らを拠り所に、絵画に再び動きを取り戻そうと働きかけました。彼の特徴でもある「激しいタッチ」は、まさにその運動感の表れともいえます。

動きの導入

そしてジュリコーの後を継いでその完成者となったのは、ドラクロワです。彼は「光と影」・「人物の激しい動き」を得意としました。

ウジェーヌ・ドラクロワ|1798−1863|フランス

ミソロンギの廃墟に立つギリシア・模写

そして彼もまた、「東方的主題」・「輝くような色彩」・「粗いタッチによる動感表現」という、反古典主義的な作風を示しました。

晩年の作品には、色彩がそれ自体で自立した表現力を獲得しているのが確認出来ます。

社会風刺的な作品

その他、ロマン主義に先駆けて、「主観的な表現」・「鋭い風刺性」を持つ作品を多数手掛けた画家として、スペインで活躍したゴヤなどがいます。

フランシスコ・デ・ゴヤ|1746−1828|スペイン

参考文献

美術史〈西洋〉|編・中山公男 中森義宗|近藤出版社

西洋美術史|監修・高階秀爾|美術出版社

西洋絵画史入門史|著・諸川春樹|美術出版社

次の様式

西洋建築史年表

日本建築史年表

2025年5月2日

西洋絵画−フランス・ロココ

舞台 フランス 絵画史の中でも、特にロココは時代区分の難しい様式です。そもそもロココとバロックの区分を認めない説もあります。そのため当ブログでは、ロココの特徴が最も顕著に現れている、フランスで展開されたロココのみを取り扱います。 背景 絶対王政に陰りが見え始める 「太陽王ルイ14世」は、神から与えられた王権の行使者としての役割を演じることの出来た「最後の王」でした。 それというのも、1715年に彼が他界すると、その絶対王政にも陰りが見え始め、「貴族等の側近勢力が台頭」して来たからです。 太陽王からの開放 ...

ReadMore

2025年5月2日

西洋絵画−北方ルネサンス

舞台 アルプス以北 イタリアでルネサンスが盛り上がりを見せていたその頃、アルプス以北の国々でも独自の流れが形成されていました。イタリア・ルネサンスと区別して、北方ルネサンスと呼ばれます。 背景 市民階級の台頭 15世紀のフランドル地方では、「毛織物工業」と「国際貿易の振興」に伴って「市民階級」が台頭して来ました。 ありのままを描く それに呼応するように、「風景画」や「風俗画」なども受け入れられるようになります。 イタリア・ルネサンスでは「古典美」を理想の範としたのに対し、北方ルネサンスは自然や人間の姿を「 ...

ReadMore

2025年5月2日

西洋絵画−新印象主義

舞台 フランス 印象派に続き、フランスが芸術の中心地として君臨しています。 背景 印象派の乗り越え 時代の寵児であった印象派も、1886年には最後の展覧会を迎え、いよいよ批判と反省の対象として乗り越えられる存在になります。 物の形を犠牲にした印象派 「分析的な手法」を得意とした印象派は、物の「形態感」や「存在感」を失ってしまうという欠点を抱えていました。 新たな活路 印象派の色彩理論に共感しつつもこの弊害を重く見た後代の画家たちは、ここに新たな活路を見出します。 特徴と画家 求めすぎた理想 印象派は「光の ...

ReadMore

2025年5月2日

西洋絵画−初期ルネサンス

西洋絵画史の始まり 西洋絵画史の精神は「人間性の自覚」にある、というのが私の基本的な考えの立場です。そのため、当ブログでは、初期ルネサンスを西洋絵画史の始まりとします。 舞台 フィレンツェ 初期ルネサンスの舞台は、市民階級がいち早く台頭したイタリアの商業都市「フィレンツェ」です。 時代背景 キリスト教世界のほころび 中世ヨーロッパ社会は、これまで精神的にはキリスト教に支えられてきました。しかし、このキリスト教観というのは、人間を神の摂理にのみ従う下僕として、その限りにおいて人生の意義を認めるものでした。そ ...

ReadMore

2025年5月2日

西洋絵画−フランス・バロック

舞台 フランス 太陽王ルイ14世が主権権を握る「絶対王政期」のフランスもまた、芸術の舞台となりました。自国の土壌で独自の様式を形成して行きます。 背景 フランスへ輸入 イタリア起源のバロックは、国境を超えてフランスにも広がりました。 伝統を守るフランス しかしフランスでのバロックは、主に前時代様式の否定として展開されて来た各地のバロックと異なり、「古典主義」的な傾向を保ちます。 それというのも、古典尊重のルイ王朝は「古代ローマを美術の範」としたからです。 王立アカデミーの設立 また、王立アカデミーの存在に ...

ReadMore

-西洋絵画史